前回は「フォーエバーヤング」「HOME ALONE」の中から、赤羽史亮さんの作品の一部をご紹介しました。今回はその続きです。これらの展示会のもうひとりのアーティストである、尾竹隆一郎さんにフォーカスしてみます。
尾竹さんの作品紹介も、けっこう難しい。私が思うに彼の作品を見るときには、彼の「ひととなり」を知ることがひとつのの鍵になるのではないかと。そこでここではトークセッションの会話を絡ませながら、作品の紹介を進めていこうと思います。トークセッションのビデオは「HOME ALONE」のホームページでご覧いただけますので、こちらもどうぞ。
岡田さん「背景は写実的なんだけど、そこに突然得体の知れないものがあるという。色がマーブルチョコレートみたいな。これたびたび出てくるでしょう。やっぱり気に入ってるんだよね」
赤羽さん「これは隆坊(尾竹さんのこと)が、おれの作品にはキャラクターがいないって訴えてて。それで顔がたくさんついてると、どこが本当の顔かわからなくなるから、そういうキャラクターを作ったって言ってたよね」
尾竹さん「なんていうか、誰も見たことのない生き物を見せたいなと。で、形の最小単位みたいなものをああいう丸い頭にして、それを組み合わせれば見たことない感じになるかなと」
尾竹さん「王道の美術みたいなものに、拒否反応があったんですよね。で昔からこういうちょっと挿絵みたいなものだったり、なんか未確認生物みないなものを「こんなの見たんです」「へたくそ」みたいな絵とか好きだったり」
岡田さん「今の合理主義みたいなものから疎外されたもの、片隅に追いやられてなかったことにされたものを、描いているような感じがするね。世界がきれいなものばかりになるとつまらない。こういう闇に潜むモノを、若い世代がやっているのは嬉しいね」
尾竹さん「ああ、なんかわかるなあと思ったのは、梶井基次郎の「闇の絵巻」を読んだとき。闇から闇に出てきてまた闇に消えていくというか」
尾竹さん「おれのよくわかんないフェチなんですけど、なんかこう絵を紙に描いて、ぽいっと書き終わった時に、箱とかに詰めておいて、早くぼろぼろになんないかなあと。そういう感じで描いて。早くなんか絵じゃなくてモノになんないかなあと。なんかこう、屋根裏からぽろっと出てきた宝の地図的にならないかなあと」
次は「HOME ALONE」の作品です。こちらは絵画ではなく、インスタレーションがメインです。
赤羽さん「なんでHOME ALONEをやったのかというと、隆坊がけっこう引き込もっていて、バイトもしてなくて。家が近くにあるんですけど、そこにずっといて。それでそこにぼくがよく遊びにいってて、ほとんどぼくしか行かないんですけど。それがなんか面白かったというか。こいつがノートにいろいろ書きためてて、そういうのを展覧会で出せたらいいんじゃないかなあって」
岡田さん「こういう個人史的なインスタレーションというのは以前からやってたんだっけ」
尾竹さん「いえ、最近です。自分はこういう感じなんだという、自分が決めたところが狭すぎる感じがして。とりあえず人に見られて、たとえば赤羽にぼくの秘密ノートとか見られて、すごく面白いとか言われたことも取り入れてみようかと」
岡田さん「赤羽くんの刺激みたいのもあったのかな」
尾竹さん「ありますよ。人の目から見た見え方を、ちゃんと見ようというか、自分をちょっと突き放すというか」
尾竹さん「展示の準備しているときに、ぼくのおじちゃんが死んだんですが、そのおじちゃんが引きこもりで、58くらいで亡くなって。それでおじちゃんの部屋行ったらまあすごくて。赤羽も一緒に行ったんだけど」
赤羽さん「そのおじさんの部屋に、ものすごい数のモデルガンとか、兵器のプラモデルとかがあったんですよ。すごく昔のオタクみたいな人だったんだなと」
尾竹さん「最初期のオタクみたいだったんですよね」
加藤さん「赤羽と隆坊は大学の頃から知ってるけど、2人はタイプが違うと思う。赤羽はぼくに近くて、わりと向上タイプというか、農民タイプというか、ルーチンワークが好きな方だと思うのね。それに対して隆坊は、たぶんそういう概念がない。それが面白いと思う」
赤羽さん「加藤さんはけっこう仕事とかバイトとかで段取りとかするじゃないですか。おれも割と段取りする方なのかな。でもこいつは本当に段取りがなくて、搬入とかでも最悪なんですよ。トラック借りてきて積み込む段になって、普通は大きい順に入れるじゃないですか、こいつは小さいモノから持ってくるんですよ。そういうところが徹底的にできない」
尾竹さん「なんだろうね。部屋もとんでもないことになっているんですよね」
赤羽さん「すごく部屋が散らかってるんだけど、ごみの分別だけ几帳面にやってるとか。バランスがおかしい」
尾竹さん「そういうことをうまくやるコツがつかめない。今のところに引っ越してきてから半年くらいなんだけど、そうとは思えないほど、部屋がごみでいっぱいになっちゃって」
加藤さん「隆坊はゴールデンエイジ(尾竹さんの学年を加藤さんはこう呼んでいました)の中でもいちばん若者らしくて、いちばんバカっぽいというか、考えが足りないというか。でも卒業して、学生時代からすると、若干オトナになった感じがするんだけど。隆坊にしては建設的に進んでいるというか。で、実際どれくらいオトナになったんですか」
尾竹さん「そうですね。オトナになったのかなあ」
赤羽さん「こいつアルバイトの面接にぜんぜん受からないんですよ。なんでかというと、アルバイトの面接は果敢に受けるんだけど、履歴書の字を丁寧に書くと怖い感じになっちゃって」
尾竹さん「まあでも、話はずれるかもしれないけど、たぶん大学行ってたころは、アートとかあまり信じてなくて、こんなの何のためにもならないんじゃないかなあって思ってたんですよね。でも最近は、ああいいもんだなあって思うようになりました。それがちょっと変わったところかな。でもオトナになっているかって言われると、まだ時間がかかるような気がするけど」
加藤さん「そんな感じが作品にも出てる。彼は普通にやってても上手なんですよ。でも大切なことは技術や知識ではなくて、けっきょく隆坊がどんな人間になるのかということだと思う。自分でもそれがいちばん興味あるでしょ」
尾竹さん「ええ」
岡田さん「それがHOME ALONEの展示になったんだ」
尾竹さん「そうですね」
(プラモデルの箱絵の上に描かれた作品群。箱絵は尾竹さんのおじさんが保存していたものとのこと。クリックすると拡大します)
岡田さん「これはおじさんへのレクイエムにもなるんじゃないかな。おじさんも草葉の陰で喜んでいるんじゃない」
尾竹さん「なんかいい人っぽい」
岡田さん「彼は悪ぶってるんですよね」
赤羽さん「なんかかわいい」
尾竹さん「自分を1回1回、ぶっ壊している感じなんですよね」
岡田さん「思った通りにはなったんですか」
尾竹さん「思った通りにはなったんだけど」
赤羽さん「思った通りになったのが、かえって面白くないというか」
尾竹さん「でもなっちゃったんだよね」
こうしてみると、尾竹さんの作品群と彼自身との関係が、少しは浮き彫りになってくるのではないでしょうか。私がトークセッションで強く感じたのは、尾竹さんがまわりの人々からすごく好かれている、そして見守られている、ということでした。それがこの作品群へとつながっているわけですね。
「HOME ALONE」は1月22日(日)まで。「フォーエバーヤング」は2月5日(日)までの開催です。興味のある方はお急ぎください。