こんにちは。オプショナルアーツの山川です。
今回は前回ご紹介した、とよだともみさんのインタビューをお届けします。
取材場所は多摩美 絵画東棟内のアトリエ。取材日は2011年1月6日。
卒業制作が佳境に入っている最中にお邪魔してしまいました。
私(以下、"-"):こんにちは。今日はよろしくお願いします。
とよださん(以下、"と"):こちらこそよろしくお願いします。多摩美って遠くないですか(笑)。
-:遠いです(笑)。
と:ホームページ見せていただいたんですが、3331の取材が多いですね。
-:そうです。あそこ、オフィスから近いんですよ。まず作品の撮影をしておきたいんですが・・・
と:ここにかけた状態で大丈夫ですか。
-:ええ、大丈夫です。
目鼻立ちにチカラを感じる
-:星をテーマにした一連の作品群になっていますが、これは背景にストーリーのようなものがあるんですか。
と:いえ、特に・・・。理屈が最初にあって描いているわけではなくて、今はまず数を作っていって、それで自分の世界を構築しつつあるといいますか・・・
-:なるほど。このシリーズはかなり長いことやっているんですか。
と:そうでもないです。今年(今年度)の始め頃(2011年4月頃)からなんですけど・・・まだ1年くらいですね。最初は小さいのから始めて・・・
-:この6作品と「クリスマスター」は、多摩美祭で見せていただきました。この顔がいいんですよね。目がつぶらなのに、鼻や口元がけっこうチカラがあるというか、頑固そうというか。へんなちょっかいを出すと、殴られそうな感じ。この顔に行き着いたのは、何か理由があるんですか。
と:もともと顔を描くのが好きで・・・
-:じゃあ、これ以前も顔を描いていたんですね。
と:大学に入って最初に描いたのがこの自画像なんですけど・・・やっぱ、なんだろうな・・・顔というか、目鼻立ちにチカラを感じるというか・・・目鼻口がそこにあるだけで物語を勝手に語り出すというか・・・
-:その後は・・・
と:いろいろやっていました。いろいろ試行錯誤していた方だと思います。いっぱいドローイングして・・・一貫したテーマというのは、大学4年間でほとんどなかったといってもいいくらいなんです。まだ短い時間しか生きていないのに、これこそが自分なんだというのは信用できないというか・・・いろいろやってみて、自分はどれをやるべきなのか、模索していたという感じでした。
-:その結果、この星の顔に行き着いたという・・・
と:でも教授にはあまり評価されていないんです。
-:美大ではどういうのが評価されるんですか。
と:教授にもよるんですけど。私の中でいちばん評価されたのは、「芸術家育成テキスト」っていう作品です。「使えるアート」という課題が出たときに作ったものなんです。
-:でも人によって好きずきっていうのはあるんでしょうね。村上隆さんのように「好きずきではなくて文脈が重要」という意見もありますけど。
と:うちの教授にも、文脈を踏まえているのが前提だとは言われるんですが・・・でも私自身は、絵本とか雑貨とか、アートの文脈とは関係ないものもひとつの分野として存在しているんだし、私はその魅力で美大に入りたいなと思ったので・・・文脈とはまた違うところで、絵の持っている元々のチカラを追求していけたらと・・・
-:ボクもそういうのは好きです。いろんな楽しみ方があった方が面白いし、そういうことが個人個人でできる世界がいいなって思いますね。
と:私も、アートの見方はいくつもあるのに、アートの文脈の観点ではじかれた絵がたくさんあるのは、なんだか悲しいなと思います。
リアルな顔とリアルじゃない風景
-:これは新作ですね。
と:「皆既日食」っていうんですけど、月が駅で電車を待っていると、後ろに太陽が並んで、太陽のことを月が覆い隠してしまうので、皆既日食になってしまうという・・・
-:へえ。面白いですね。この顔の目だけ見るとかわいくって、一種のキャラクターのようにも見えるんだけど、鼻と口の強さがあることで、いわゆる「カワイイキャラ」ではない感じになってますよね。
と:私もうまく言葉が見つからないんですけど、キャラクターって言うほどには媚びていないと言うか。ちゃんと鼻を描いてあげているというのが、そういう感じにつながっているのかも・・・
-:あと唇も・・・
と:目だけを隠すと、普通の人の顔に見えると思います。目だけがキャラっぽい。
-:それから顔はリアルな印象なんだけど、まわりの風景は童話的というか、絵本的というか・・・
と:顔だけリアルにしてまわりを抽象的にしておくと、違和感が際だつというか。どちらもリアルだと、それで世界が調和してしまうというか・・・
-:あごのクレーターなんて、妙にリアルですよね。
と:そうですね。なんだかリアルに描けちゃいました(笑)。
-:描けちゃったんですか(笑)。
と:描けちゃいました(笑)。
-:それに対してホームの風景は・・・
と:あまり立体感のない・・・月と太陽の位置関係も立体感が足りなくて、千手観音みたいになっちゃってて。これは機会があったら書き直してあげないといけないなあって思ってるんです。
と:そうですね。顔シリーズで。宇宙ものではなくなるんですが、それ以外で。今はお寿司とか、トマトとか、こんなのも作っています。
-:同じテーマやモチーフを続けていくと、見えてくるものもありますよね。
と:そうですね。同じグループの子でずっとマッチ棒を描いている子がいるんですけど、これって発想の面白さだけではなくて、数の多さもその魅力を倍増させているんですよね。ずっとやり続けていくことで、強固な世界観ができあがっていく感じ。そのことを最近になって、ようやく理解しました。
-:それわかります。
と:ただ並べていくだけでも。
-:数が揃うと物語ができるんですよ。
実は下地が命
と:顔シリーズということでは、他にも年賀状で、鏡餅に顔を描いています。
-:なるほど。でも個人的な好みをいうと、宇宙ものの方が好きだなあ。なぜだろう。
と:やっぱり何か違いますか。
-:何か迫ってくるものがあります。ずっと眺めていたときに・・・何が違うんだろう。
と:素材が変わるとけっこう画面も変わるのかもしれません。お寿司やトマトを油で描いたら、けっこう違うものになるかも・・・
-:油の存在感なのかな。
と:油の存在感と、あと下地がちょっと違っていて、素のままのキャンバスではないんです。モデリングペーストっていう、本当は絵画の下地に使うものではないんですけど、これを塗った上に描いています。これじゃないと、この感じが出ないんですよ。
-:油の吸い込みが違うんですか。
と:そうですね。コンクリートみたいに吸います。オイルをたくさん使うとやっぱりテカテカになりますが、吸い込みがいいので光を反射しない、マットな感じになります。マットが好きなんです。
-:そうか、マットな質感があるから・・・
と:これで描かないと、この感じが出ないんです。これは年賀状の元の絵をキャンバスにジェッソを塗って描いているんですけど(上がキャンバス+ジェッソ、下がキャンバス+モデリングペーストで描いた「高所恐怖症の星」の一部)・・・触ってみると違いがよくわかります。
-:触ってもいいんですか。
と:もう乾いてるので。手が汚れなければいいんですけど。
-:ほう。
と:けっこう違いますよね。
-:表面がさらっとした感じになりますね。
と:そうです。これがすごく好きで。実はこの下地が大事。モチーフやテーマに関しては迷いがあるんですけど、この下地はもう(私の絵の)命のようなものですね。
-:面白いですね。
と:油絵の具って、基本は乗せる、乗せるというものだと思うんですけど、これだと水彩に近くなるので、濃淡がつけやすいですね。
-:なるほど。
と:あと筆の跡も残らなくなります。
-:いま卒業制作の最中だということなのですが、発表はいつなんですか。
と:2月に国立新美術館で・・・
-:すごいじゃないですか。
と:すごいです(笑)。人生で最後の国立新美術館かもしれません。開催期間は2月23日から3月4日なんですけど、東京の5美大がみんな一緒に発表するんです。
-:作品数もかなり多そうですね。
と:参加人数が多いので、1人100号以内という規定があります。
-:そうですか。2月ですね。楽しみにしています。
インタビューを終えて
もの静かにゆっくりと、しかしきちんと言葉を選びながら話をする姿勢が、とても印象的でした。卒業後も制作活動を続けていくとのこと。今後の作品にも期待しています。
ちなみに右の写真が、インタビュー後半で話題になった「モデリングペースト」です。一般的にはアクリル絵の具と組み合わせて使うケースが多いようですね。