こんにちは。オプショナルアーツの山川です。
今週月曜日、東京藝術大学の卒展を見に行きました。いい作品がたくさんあったのですが、今回はあえて1人だけご紹介したいと思います。圧倒的な描写力、強烈な色、そしてその世界観に、ノックアウトされてしまったのです。
アーティストの名前は岡本瑛里さん。同級生は「エリック」と呼んでいました。2010年に東京藝術大学を卒業、今年大学院油絵技法科を修了しています。すでに在学中からいくつかの賞を受賞しており、注目の若手美術家のようです。
今回の卒展では、絵画棟7階で作品を展示。ここではその中から2作品を採り上げます。
まずは右の作品。タイトルは「奪還(The Regaining)」、大きさは幅91cm、高さ197cmです。この作品は2010年に制作されたもので、すでに「個人蔵(売却済み)」となっています。(クリックすると拡大します)
描かれているのは、緋色の布あるいは房のようなものを、人と白狼が奪い合っている図。その周辺には数え切れない数の動物たち。実在しそうなものもあり、空想上のものもある。そしてみな鮮やかな色の体毛に包まれています。
タイトルの「奪還」とは、誰が何を誰から奪還しようとしているのか。おそらく人が身体に巻き付けた緋色の房を、動物たちが奪還しようとしているのでしょう。人はそれに対して必死になって抵抗していますが、分の悪さは隠せない。次の瞬間には指が浮いてしまっている左足がすべり、動物たちの真っ直中に落ちてしまいそうです。
これに対して白狼は余裕の表情を見せている。まわりの動物たちは、みな彼の味方なのでしょう。
綿密に描かれた宗教絵画のようです。プロフィールによればモチーフの原点は、古くから伝えられている日本やアイヌの民俗信仰にあるということです。それらの中に描かれている、人と動物、さらにそれら以外の存在が、お互いを畏れ敬いながら共生する世界。これを「今を生きる我々がこの時代にこそ見るべき物語」として「織り出したい」と書かれています。
もう1つの作品は「通りものの路(The Spirited Trail)」。幅180cm、高さ80cm、これもすでに「個人蔵」となっています。
森の中の小川の周辺に、無数の動物たち。そのほとんどは霊魂のような状態になって、画面の消失点に向かって渦をなし飛び去ろうとしています。
この作品も、きめ細かい描写と過剰なまでの色彩が、見る者を圧倒します。そして動物たちの表情が実にいい。
植物の葉の表現、枯れ枝が積み重なった地面の表現も、極めて緻密です。まったく妥協というものを感じさせない。これも圧倒感につながっているのでしょう。
実はこの2作品よりも、さらに大きな作品も展示されていたのですが、ここでは紹介しません。岡本さんのホームページに「胞衣(えな)清水」というタイトルで掲載されていますので、こちらをどうぞ。
東京藝術大学の卒展には他にも興味深い作品が数多くありました。やはり東京藝術大学は、全体的に技術力が高いような気がします。