3月3日に、青山スパイラルガーデンでやっていた多摩美の工芸学科卒業制作展2012「素」を見に行ったのですが、今回はその中からひとつご紹介します。スパイラルガーデンの展示は撮影禁止だったのですが、受付の担当者にお願いして、特別に許可をいただきました。イキな計らいをしていただき、ありがとうございます。
でもこの作品は、頼み込んで撮影して、ご紹介するだけの価値があると思ったんです。作家さんの名前は杉浦亜紀さん。展示全体のタイトルは「海から宇宙へ」。真鍮とガラスを使った3つの立体作品です。
タイトル通り、海から見ていきましょう。下の作品は「海を覗く穴」です。
この距離から見ているだけでも、全体の質感に目を惹き付けられます。そしてとうぜん、上から覗き込みたくなる。
外側の球体の内側に絵が描いてあり、その内側を半球状のガラスが幾重にも重なっています。境界面で屈折する光が、複雑な風景を作り出している。手間がかかっていますねえ。
中に描かれている絵も細かい。海草あり、珊瑚あり、魚あり、そしてウツボまでいる。実ににぎやかな海の風景です。
お次は陸上の世界。タイトルは「日常的眼鏡」です。
これは真鍮の質感がいいですね。フリーハンドでカットしたようなアームの上に、まん丸い眼鏡のフレームが乗っかっています。でも近くから見ると、フレーム部分も手作り感が強いことがわかる。細かく絵まで掘られています。
眼鏡に映っているのは、地上から見た空の風景でしょうか。雲が流れ、太陽が輝き、鳥が飛び、ロケットまで飛んでいます。
そして宇宙へ。「惑星ステッキ」です。
この作品の見どころは、まるで地球儀か天球儀のように組み込まれた上部の球体です。ところどころ覗き窓が開いていて、そこから中を見ることができる。覗いてみると宇宙が広がっているんです。
覗き窓のガラスが少し盛り上がっている。作るときに少し多めに盛り上げておいて、球面になるように削り、磨き上げたのだといいます。
各作品の台座に埋め込まれているタイトルプレートもいい。遊び心が溢れています。
この作品を撮影している最中、私と同じようにこの作品に惹き付けられて、その前を離れられなくなったご夫婦がいました。旦那さんが近田春男さんによく似ていたのですが、「この作品は実にオモシロイ」「学生の作品にはこういう手間暇を惜しまないものがあるから楽しいんだ」と、意気投合してしまいました。
でもね、本当に、こういう作品に出会うと、展示会に足を運んだかいがあったなあと、心から思うんですよ。