今回は4月7日から29日まで開催されている、大小島真木さん個展『獣たちの声は精霊の声となり、カヌムンは雨を降らし、人々は土地を耕した。』を紹介します。
大小島さんは2011年に女子美術大学大学院を修了。個展やグループ展で作品を発表する他、自ら制作した絵本の読み聞かせをさまざまな場所で行うなど、かなり精力的な活動をしているアーティストです。民話や民俗学、風土信仰などに興味を持ち、それらの物語を“編み込んだ”作品を数多く制作しています。
彼女の絵を見て感じるのは、底知れぬエネルギーのようなものです。まるで絵の中から、ざわざわと音がしてくるような印象。鑑賞者が絵を見ているというよりも、絵の方から何かを放射してくるような。そんなパワーを感じます。
また1枚1枚の絵の中に、それぞれ物語がある。そして複数の作品がひとまとまりになることで、さらに大きな物語が生まれてくる。
その物語とは、一種の文明論であり、私たち人類がどうあるべきかという問いかけです。
私の感触では、今回の展示は大きく4つのサブセットで構成されていると感じました。作者の意図はまた違うのかもしれませんが、ここではこの印象に従って、一連の作品を見ていきたいと思います。
1.物語の起点と生命の根源
まずはギャラリー入り口の左側から見ていきましょう。壁に大きな白いカラスが描かれ、その中にカラスをモチーフにした壺が描かれています。
「このカラスはワタリガラスなんですよ」とギャラリーの方は説明します。ワタリガラスは、日本では北海道で冬の渡り鳥として見られ、オオガラスとも呼ばれているそうなのですが、ここで重要なのはそんな生物学的な話ではありません。これが数多くの伝説に登場するこということです。
例えば北欧神話では戦争と死の神であるオーディンの斥候として登場し、聖書ではノアの方舟からノアが渡りガラスを放ったという記述があるそうです。またアラスカではワタリガラスをトーテム(人々に生命力や祝福を与える存在)とする部族があり、アイヌの伝説にもワタリガラスの若者が、神の使いとなって人々を救う話があるようです。
ワタリガラスは神の使いであると共に、世界を見渡し、人々を導く存在でもある。そのワタリガラスが、この展覧会全体の語り部なのです。
「昔話、ウエペケル、ツイタク Folk story, Uepeker, Tuytak」
そして壺は、文明の象徴だといいます。この壺の絵は、ワタリガラスが見た文明の世界をこれからお見せしようという、ひとつの宣言なのでしょう。
その上で、文明以前のイメージがインサートされます。
「呼吸する大木 Huge tree breathing」(クリックすると拡大します)
大木の幹。ここには生命の起源から連綿と続く、自然と生き物たち、そして精霊たちの歴史が刻まれている。あるいは宇宙そのものの歴史なのかもしれない。
人々はまだ自然と共にあり、精霊の声を聞くことができた。そして世界に対する畏れと共に生きていた。
そして人類はついに、火を手に入れる。
「落雷、そして人類が出会ったはじめての火 Thnderbolt, The fire man's first-time encounter」
文明前夜の到来です。
2.文明の発生と発展、あるいは崩壊
文明を可能にしたのは、農耕による安定した食料調達だということは、ひとつの定説になっています。豊富な穀物の存在によって、人類はより大くの人々を養うことが可能になり、コミュニティも大きくなっていきました。
そして国家が生まれます。
「Time-国家と文明の出現/making Time-The emergence of state and civilization/making」
「国家と文明の出現 The emergence of state and civilization」(クリックすると拡大します)
「国家と文明の出現/耕 The emergence of state and civilization/Cultivate」
国家と文明の誕生は、新たな宗教や科学も生み出しました。そして戦争も。
時計の針が鳴らす“12時”とは何なのだろう。それは文明が崩壊する時を象徴しているのだろうか。たとえそうだとしても、時の流れは止まらない。
さて。
このエントリー、続きます。