こんにちは。オプショナルアーツの山川です。
大小島真木さん個展『獣たちの声は精霊の声となり、カヌムンは雨を降らし、人々は土地を耕した。』の続きです。
3.文明の遺産/パラレルワールド
前回は人と自然が一体となった原初的な世界から始まり、文明の出現へと展開してきました。この2つのステップは、いわば時系列的な関係にあります。次のステップでは、時系列とは異なる視点から、文明を眺めることになります。いわばパラレルワールド的な「可能性を見る視点」です。
あるいは科学技術文明が崩壊し、そのありさまが文字を持たない人々の叙事詩として、語り継がれる世界が残るのかもしれない。
あるいは自然との調和に長けた人々が、ユートピアを作っているのかもしれない。
「トンタカタンマーチ Tong-tack-tack march」
他にもさまざまな可能性がある。
そしてこのような「可能性の視点」は、「自分たちとは何物なのか」を改めて問う視点へと繋がっていく。
「私は太陽から生まれた。
私は海から生まれた。
私は大地から生まれた。
私は父の胤と母の卵から生まれたのだ。」
(作者の作品アーカイブから引用)
4.そして再び、精霊と生きる世界へ
最後にギャラリー中央に目を移しましょう。そこには大きな紙の表裏に描かれたカラフルな絵が、天井から下がっています。タイトルは「精霊たちの家」です。
入り口に面した絵は、南国の森の中にある、草葺きの家です。家の土台部分ははっきりとは見えませんが、高床式であることがなんとなくわかります。破風の部分には豹の頭が飾られ、外壁には数多くの樹皮絵画が貼られています。
樹皮絵画はインドネシアやオーストラリア(アボリジニ)に古来から伝わる絵画で、個々人にとって重要なトーテムとして、動植物や自然物を描くものだとされています。これはいわば一人ひとりにとっての守り神の象徴なのです。
チカラの象徴である豹と、数多くの樹皮絵画が飾られていることから考えれば、この建物は神聖な儀式を行う場所、もしくは集会所としての役割を果たしているのでしょう。
その一方で、反対側には雨乞いをする人々と、それに応える精霊が描かれている。
ギャラリーの方によれば、これらの精霊たちはアイヌの神々をイメージしているのだそうです。
おそらくこの両面に描かれた絵は、作家にとってひとつの「あるべき姿」を表現したもののような気がします。私たちは文明を作り、その中で生きている。しかし今でもその気になれば、精霊の声を聞き、トーテムを見ることができるのだと。
以上、私の勝手な解釈でゴタクを並べてきましたが、ひょっとすると作家の意図とは違うかもしれません。もしそうであったらお許しを。できれば実物を見た上で、鑑賞者それぞれの物語を紡ぎ出していただければと思います。
大小島真木さん個展は4月29日(日)まで、3331/island MEDIUMで開催中です。実物は写真よりも、もっと迫力がありますよ。もちろん。