こんにちは。オプショナルアーツの山川です。
今回は GALLERY MoMo 両国 で開催されている、室井公美子展「Opposite bank」の作品をいくつかご紹介します。室井さんは1975年に生まれ、2007年に東京造形大学を卒業、2009年に同大学大学院造形研究科美術研究領域を終了された方です。今回の個展では合計30点の油彩作品が展示されています。畳2畳分くらいの大作から、15×20cmくらいの小品まであったのですが、個人的には小品に心を惹かれました。
とりあえず、いくつかの作品を見ていただきましょう。私が「これはいいな」と思ったものを中心に。
「潜める」
「待つ」
「水源」
「Yellow sand 1」
「Yellow sand 2」
これらの作品は、横方向に流れる細かいストロークで描かれた面をベースに、その面の向こう側に透けて見えるような風景と、その手前側の何物かという組み合わせになっています。あたかも磨りガラスを間に挟んで、その向こう側とこちら側を描いているような。ふたつの世界の境界を見せられているような感じです。ベースになっている面の細かい筋も気持ちいい。オーディオ機器などのフロントパネルに使われる、アルミのヘアライン加工を思い出させます。
お次はこの3作品。
「Planet 1 (Rainbow)」
「Planet 2 (Black)」
「Planet 3 (Yellow green)」
これらの3作品は、作家自身は展示するか否か悩んでいたそうなのですが、ギャラリーが背中を押す形で展示に至ったそうです。どうも作家自身はそれほど気に入っていなかったらしい。でも私は面白いと思いました。特に「Planet 1 (Rainbow)」は、ベースになっている一連の色と、その上に被さっているマテリアルが、それぞれ動きを感じさせる、興味深い作品だと思います。
それから・・・
「Freeze 3(Blue)」と「Freeze 4(Blue)」
「王の玉座」
いずれの作品を見ても、何を描いているのかは、はっきりとはわかりません。いったん視覚が捉えた映像を解体して、さまざまなものを取り除いている感じがします。そしてその作業の中で、何かを探し出そうとしているような。
私はこれらを見たときに、萩尾望都さんの「スターレッド」という漫画作品を思い出しました。
主人公のレッド・星は第5世代の火星人で、高度な超能力を持っています。物を見るときはもはや「目」という感覚器官を使わず、脳で直接感じています。その視覚について2人の政府関係者(ベルとアン・ジェ)が話をするシーンがあります。なおアン・ジェも超能力者という設定です。
アン・ジェ「あの子の目、視力はゼロでしょう?」
ベル「ああ、でも透視能力があるんだろう」
アン・ジェ「ときどきチラッと頭の中が見えるんですけど・・・色彩や物体が正常に見えていないらしんです。ひどい乱視のように・・・だぶっているんです」
ベル「星の頭の中の構図を覚えているかね?ちょっとスライドに念写してみてくれないか・・・正確に」
アン・ジェ「おやすいごようですわ」
ベル「これはいつの・・・」
アン・ジェ「つい1時間前。この部屋で私と話をしている時の頭の中の図ですわ」
ベル「シュールな絵のようだな」
アン・ジェ「キュビズムじゃありません?」
ベル「この中央の点が星で、色変わりしながら伸び縮みしている影が君だろう。もう1人部屋に誰かいたね」
アン・ジェ「そういえば・・・ビアンがいたわ。でもベル、あの子には人間が、こんな影だか点だかのように見えているのかしら」
まさにこの会話を思い出したのです。もちろん室井さんの作品群は(おそらく)キュビズムではありません。でも通常とは異なる視覚で世界を捉えていると言う点では、共通するものがあると感じたのです。
何かを見る。その映像は対象物や風景の一面にしか過ぎない。それにとらわれると見ている物のほんとうの姿を捉えることはできない。それでは見ている物のほんとうの姿とはどのようなものなのか。私たちの視覚が進化し、「目」という感覚器官の制約から逃れることができたら、いったい世界はどのように見えるのでしょうか。
ひょっとするとそれは、これらの作品のような見え方をするのかもしれません。
GALLERY MoMo 両国 の室井公美子展「Opposite bank」、6月23日(土)まで開催しています。大江戸線・両国駅 A5出口からすぐです。もしよろしければぜひ。