こんにちは。オプショナルアーツの山川です。
今回ご紹介するのは、3331内のisland MEDIUMで開催されているうさぎっこクラブ個展「卯展決行」です。
うさぎっこクラブは、愛☆まどんなさん、大塚聰さん、桜井貴さんという若手アーティスト3人による同人誌サークルなのですが、ここでは桜井貴さんの作品をピックアップしてみたいと思います。
まずは下の5作品をごらんください。キュビズムというか、いかにも「ピカソ」といった描き方で、5人の少女の肖像が描かれています。
「『まどか☆マギカ』の登場人物なんですよ。『まどか☆マギカ』って知ってます?」
「名前は聞いたことありますけど、見たことはないですね」
「『まどか☆マギカ』には5人の少女が出てくるんですけど、それをピカソが描いたらこうなるだろうという作品なんです」
「なぜピカソなんですか」
ここで作者の桜井さんが登場。そして衝撃の発言。
「実はピカソはキュゥべえなんです」
「ちょっとちょっと、キュゥべえって何?」とおっしゃるあなた。『まどか☆マギカ』をご存じない方のために、ここでちょっとだけ解説を。
『まどか☆マギカ』とは、正しくは『魔法少女まどか☆マギカ』。2011年1月~4月にテレビ放送されたアニメ作品です。尻尾の長い猫のようなウサギのような“キュゥべえ”という謎の生物が、主人公の少女“まどか”の夢の中に現れて「僕と契約して、魔法少女になってほしい」と告げるところから物語が始まります。魔法少女になるとどんな願いも叶うのですが、その一方で人の世に仇をなす魔女と戦い続けなければならないという、宿命も背負うことになります。このような設定の中で、まどかと4人の魔法少女にふりかかる過酷な運命。衝撃的なストーリー展開や大きな世界観が高く評価され、かなりの話題になり、映画化も予定されています・・・
とのことなのですが、私はまだ見ていないので、上記内容はあくまでも受け売りです。詳細はWikipediaや公式サイトをご参照あれ。
閑話休題。
それではなぜピカソがキュゥべえなのか。桜井さんは「ピカソ=QB説」と題されたB5サイズの紙を取り出して説明してくれました。
「ピカソ=QB説」の内容をかいつまんで紹介すると、以下のようになります。
キュゥべえは少女たちの願いを叶える代わりに彼女たちを魔法少女にし、魔法少女は悪役の魔女と戦うことになる。しかし実はこの魔女は魔法少女のなれの果てである。キュゥべえが魔法少女を作り出しているのは、魔女を一掃するためではなく、魔法少女が魔女になる時に生成されるエネルギーを回収することが目的なのである。
つまりキュゥべえは若い女性達からエネルギーを得る一方で、老いた後は彼女たちを捨て去り、新たな魔法少女達と戦わせている。これはまさにピカソの人生とそっくりなのだ。
ピカソは正式な妻以外にも何人かの愛人がいた。正妻はドーラ・マールだが、46歳の時には17歳のマリー・テレーズ、62歳の時には21歳のフランソワーズ・ジローと不倫している。相手はみな若い女性。そしてマリー・テレーズとドーラ・マールに、自分の前でとっくみあいの喧嘩をさせたりもする。その時のドーラの表情をもとに、「泣く女」という作品を描いたという有名な話もある。
またキュゥべえは“インキュベーター”と呼ばれる地球外生命体の“端末”に過ぎず、同じ姿の個体が複数存在し、全体で意識を共有している。ピカソもまた“一人ではない”と考えた方が自然ではないか。ピカソの本名は聖人や縁者の名を繋いだ非常に長いものであり、ギネスブックに載るほどの多作でも知られているからだ。今でも作品が新たに発見され続けていることを考えれば、我々がよく知っている“個体としてのピカソ”が消滅した後も、“ピカソという存在の総体”はどこかで生き続けているのではないか。
このようにピカソという存在は、インキュベーターそのものである。そして2011年のピカソが、自分とよく似た性質のキャラが活躍する『まどか☆マギカ』の世界を描いていたといても、決して不思議ではないのだ。
この論理展開に、私は一発でやられちゃいました。面白い。
ここでもう一度、個々の作品を見ていきましょう。
まずは「まど☆ピカ」と題された作品。「まど」とは主人公の「鹿目まどか」のこと。「ピカ」はもちろん「ピカソ」ですね。
次は「さや☆ピカ」。「さや」はまどかのクラスメイトの魔法少女「美樹さやか」のことです。
これは「マミ☆ピカ」。「マミ」はまどかの1年上級の魔法少女「巴マミ」です。
これは「ほむ☆ピカ」。「ほむ」はまどかの通う中学校に転校してきた魔法少女「暁美ほむら」です。
そしてこれは「杏(きょう)☆ピカ」。「杏(きょう)」は別の町からやってきた魔法少女「佐倉杏子」です。
それではそれぞれの作品で、ピカソのどのような表現手法が使われているのでしょうか。この話もなかなか興味深いものでした。ここでは桜井さんにお聞きした話のうち、2作品の手法をご紹介しましょう。
1つ目は「まど☆ピカ」。この作品には、ピカソの「ドーラ・マールの肖像」の顔の描き方や、「ゲルニカ」等に出てくる手の描き方が使われているそうです。右上が「ドーラ・マールの肖像」の一部、右下が「ゲルニカ」の一部です。
2つ目は「ほむ☆ピカ」。これは「花とジャクリーヌ」の構図が利用されているとのこと。右側がピカソの「花とジャクリーヌ」です。ジャクリーヌとは、ピカソの最後の妻だった人ですね。
確かに。こうやって対比してみると、より面白くなりますね。
タイトルは「あびにおん!」。これはピカソの「アヴィニョンの娘たち」と同じ構図で「けいおん!」のキャラクター達を描いた作品だそうです。
右の絵が「アヴィニョンの娘たち」なんですが、確かにおなじ構図です。桜井さんによれば、これも描く理由があったとのこと。その理由というのが・・・
「『アヴィニョンの娘たち』が描かれたのは1907年なのですが、『けいおん!』が発表されたのはそのちょうど100年後の2007年なんです。ちょうど100年後というところに、強い因縁を感じませんか」
なるほど。ちょっと強引なような気もしますが、これも面白い着眼だと思います。
重要なのは、このような着眼とか思いつきというものを、単なるお話として終わらせるのではなく、実際に作品として仕上げてしまうという実行力です。「面白いから作っちゃおうぜ!」みたいなフットワークの軽さって、とても大切だと思うんですよね。世の中、やったもん勝ち。これからも頑張っていただきたいなあ。
それはともかく「卯展決行」は2011年12月25日まで開催しています。桜井さんの他の作品もありますし、「渡辺真子展」でもちょっと登場した「愛☆まどんな」さんの大きな作品、透明感のある彩色が美しい大塚聰さんの作品も必見です。週末はぜひ3331へどうぞ~。