こんにちは。オプショナルアーツの山川です。今回は3331のバンビナート ギャラリーで開催されている「蛭子未央“おいしい軟水”」展をご紹介します。
蛭子未央さんは1987年生まれで、武蔵野美術大学 油絵学科を今年卒業する予定になっています。一見すると「いったい何だろう」と思わせる数々の絵。展示の紹介文には「アール・ブリュット」という言葉が登場し、さらに「美術教育を受けた蛭子の作品は当てはまりません」という記述があります。しかし作者本人を知らなければ、アール・ブリュットだと思ってしまいそうな雰囲気もある。実際に蛭子さんと話をしてみると、そのようなカテゴライズは確かに、ちょっと違うんだろうなと感じるのですが。
「ロボちゃん」(キャンバス/アクリル)
蛭子さんはそれぞれの絵について「何を描いたものなのか」「どのような風景なのか」を、こちらの質問に対して明確な言葉で説明してくれます。しかし彼女の作品は決して、網膜に映ったものを描いているわけではない。彼女の脳内に映り、さらに記憶のフィルターに晒されたイメージを、ダンプアウトしているような印象です。
描線の勢いも特徴的です。「まるで書のようですね」と話しかけると「実は書道も得意なんです」と微笑みながら答える蛭子さん。絵を描くときにはあまり時間をかけないとのこと。「1日に3~4枚は描いています」。それはすごい。
絵を描くという行為自体が、日常生活を成立させるための、重要な要素になっているのでしょうか。テーブルの上に載っている作品集のファイルにも、膨大な数の作品が掲載されています。しかしそれでも作品集に収めることができたのは、これまでの作品のごく一部なのだといいます。
左上から時計回りに「daidarabocchi」(キャンバス/油彩)、「pick up a branch」(キャンバス/油彩)、「white woman」(キャンバス/油彩)、「春よこい」(キャンバス/油彩)
色遣いは鮮やかなこともあれば、暖かいことも、淡々としていることもある。しかし総体的に見て、色の美しさに目を奪われる作品が多いような気がします。
そして時に、サンマが現れることもある。
左:「untitled」(キャンバス/油彩)、右:「daidarabocchi」(キャンバス/油彩)
蛭子さんは質問に対してはっきりと答えてくれる一方で、こちらが述べる感想も、抵抗なくスルリと受け止めてくれます。絵によって何かを伝えようという気持ちよりも、むしろそれぞれの鑑賞者がどのように感じたのかを、面白がる気持ちが強いようです。それがたとえ作者のイメージと異なっているとしても、それを否定することなく素直に楽しんでいる。
ちなみに蛭子さん自身が特に気に入っているのは、次の2作品だとのこと。何を描いているのか、明確な形になっていないところがポイントだそうです。
なおこれは余談ですが、ギャラリーの方に、蛭子さんと私の顔つきが似ていると指摘されました。蛭子さんも私のことを「父に似ているかもしれません」と。ははあ、そうですか。そういわれると、そういう気もしてくるから不思議です。
それはさておき「蛭子未央“おいしい軟水”」、3月11日(日)まで開催されています。今週末の3331は他にもイベントが盛りだくさんなので、時間があればぜひ立ち寄ってみてください。
展示されている作品群を見てどう感じるかは、もちろんあなた次第です。