こんにちは。オプショナルアーツの山川です。
今回は前回の続き、加茂昴さん個展紹介です。
作品の核心が「バグ」だというところで前回は終わったのですが、今回はまず加茂さんの以前の作品をちょっとだけ見ておきたいと思います。過去作品の写真をさらに撮影したので、ちょっと反射して見にくい部分もありますが、お許しを。
ひょっとしたら、こちらの方がわかりやすいかも知れません。
非常に幾何学的な、マイコン時代のコンピューターグラフィックスとでも言いたくなるような作風です。「コンピューターがバグったときの画面みたいな」と加茂さんはおっしゃっていたのですが、作品全体がなんていうんだろう、規則性がある一方で、奔放さも感じさせるというか、ものすごくダイナミックな感じです。おそらく加茂さんは、このバグというモチーフを、心の底から楽しんでいたのではないか。「徹底的に遊んじゃおうぜ」といった気持ちが、ビンビンと伝わってきます。
これに対して今回の展示は、まったく対照的に見える。抑制的というか、写実的というか。でも実は、バグがあちこちに潜んでいるのです。
私が加茂さんの一連の作品を見てまず感じたのは、コントラストの強さ、そしてそのコントラストが生み出す“光感”とでもいいましょうか、何かものすごくまぶしい感覚です。
例えばたき火の炎。
青空。
ビルの窓から漏れる灯りも目映ゆい。
遠くから見ると、まるで写真のように見える。リアルすぎるくらいにリアルだ。その一方で一部の絵には、妙な違和感がある。
例えばこことか。
こことか。
この直線的な、幾何学的な描き方は、以前の作品にも見られた表現です。彼にとっての「バグ」というモチーフが、これらの写実的な作品の中で繰り返されているのです。
このようなバグは、他にもいくつか見つけられる。特に前半の、牧歌的な風景の中に。
ひっそりと隠れているものもあれば、
風景全体に広がっているものもある。
前回掲載した自画像の描き方も、まさにこのモチーフの再現です。
しかし震災の瓦礫や都市のイメージの中には、このようなギミックがほとんど見つからない。おそらく彼にとって、瓦礫や原発問題、都市のビル群は、それ自体が一種のバグなんだと思う。そしてそのバグの萌芽は、日常的な穏やかな風景の中にも、密かに潜り込んでいるということなんだろう。
「バグをどの程度潜り込ませるのかは、かなり慎重に計算しています」と加茂さん。やりすぎだと感じた時には、その部分を書き直したと言います。
彼が「バグ」という言葉で提示した違和感。あるいは、あまりにもリアルであるはずなのに、そのリアリティが手のひらをすり抜けていく感覚。この「ズレ」のようなものの存在が、静かなパッションにつながっているような気がする。以前の作品のような爆発するような奔放さではなく、抑えられたところからジワジワしみ出してくる、そんなパッションです。
この展示で描かれた絵は基本的に、加茂さんが実際に目にしたものを描いているのだともいいます。しかし1点だけ、空想の風景があります。それは最後の、雪山を歩く風景です。
この雪山も、加茂さん独特のタッチで描かれている。濃淡のある直線群が作り上げる巨大な角錐。幾何学的でもあるが、そこに映る影はとてもリアルだ。
斜面は信じられないくらいに白く、空は信じられないくらいに青い。なんだか現実と非現実の境界が、曖昧になっていく気分です。
2人が目指す山頂の向こうには、何が見えるのだろう。そこにはバグのない世界があるのだろうか。たぶんそこにも、きっとバグは待ちかまえているんだろうな。
それはさておき、加茂さんの個展、明後日の3月25日(日)まで開催しています。お時間が許すのであれば、ぜひ実物をご覧あれ。