前回(3月9日)は「まめあそび」の大隅さよこさんをご紹介しましたが、今回はその向かいの部屋で同時期に個展を開催していた、杉澤友佳さんの作品をご紹介します。
杉澤さんも多摩美大学院の日本画を今年修了される方で、多摩美芸術祭や東京五美大連合卒展の作品展示でも注目していました。この方の作品は人間をテーマにしたものが多いのですが、その描き方が独特で、どうにも記憶に残ってしまうのです。
まずは修了作品を。タイトルは「The laugh」。180センチ×270センチの大作です。
「The laugh」(クリックすると拡大します)
邪悪な含み笑いをする女性、天真爛漫に笑う女性、そして何かを腹に秘めたような含み笑いをする女性。いずれも「笑い」には違いありませんが、その対比はちょっとしたアイロニーを感じさせます。
ここで注目したいのが、背景や服の描き方。まるでスクリーントーンを貼ったような表現ですが、これらはすべて手書きのパターンです。しかも実に細かく、丁寧に描き込まれているのです。
他の作品も見ていきましょう。下の作品は「正午過ぎ」というタイトルです。
これは117センチ×73センチほどの大きさですが、やはり同じような手法で描かれている。例えば耳のあたりを拡大すると、下のようになっています。
複雑な幾何学的な模様が、細かく描かれていることがわかるはずです。
次は「エース」という作品。52センチ×36センチくらいの大きさです。
顔のあたりを拡大するとこう。
とにかく手間がかかっている。制作期間も長い。例えばこのくらいの大きさの作品では、ひとつ仕上げるのに1ヶ月かけているといいます。集中力と忍耐力が必要な作風です。
--顔の部分と周囲のパターンの描き方にかなりの差があって、なんだかコラージュ的な表現になっていますね。
杉澤さん「そうですね」
--描くときは顔とパターンのどちらを先に描き始めるのですか。
杉澤さん「まずまわりの細かいパターンを描いていって、最後に顔を描きます。描いている途中はずっと、顔の部分は空白なんですよ」
--でもそうでもしないと、細かいところの描写を続けるのが、精神的にツライかもしれませんね。
杉澤さん「そうですね。とにかく細かいところを先に仕上げて、最後に顔をいれると、ああできたなあと思います」
--この細かいパターンは計画的に作っていくのですか。
杉澤さん「どちらかというと手の動くままに、好きなように描いているという感じです。大きな作品では、どこにどういったパターンを描くかを、事前にある程度区分けしておきますが、小さい作品では端からどんどん描いていってしまいます」
--まるで山下清画伯のようですね(笑)。
小さい作品の例が、下の写真です。大きさはポストカード大か、それより少し大きいくらいでしょうか。
なんだか楽しんで描いてるなあ、という印象です。
ほら、子供の頃、教科書とかノートの端にちょっとした落書きを描いていたら、どんどん付け足したくなって、収拾がつかなくなったことってありませんか?この2つの作品を見ていると、その時の気持ちを思いだすんですよね。
ひょっとしたらどういう作品になるのか、作家本人もできあがるまでわからなくって、ある程度満足いくまで描き込んだときに完成、なのではないかなあ。違うかなあ。違っていたらすみません。
それから、芸術祭の時から記憶に強く残っているのは、次の作品だったりします。タイトルは「Remedy」。
Remedyって、治療薬とか救済策といった意味なんだけど、この絵の内容とどうつながるかは不明。聞いておけばよかった。でもなんだかこの絵の印象が強くって、忘れられないんだよな。
他の作品もそうなんだけど、細かいパターンの隙間から、女性心理の裏側がチラリと見えているような。そんな感じがするんです。