あともうひとつだけ、多摩美卒展から。今回紹介するのは、大学院工芸学科金属専攻を修了された内田望さん。私の高校時代の同級生で、今は東大の先生をしているN氏が、「これはすごい」と絶賛していた作品です。
内田さんは卒展の前に銀座で個展も開催していて、私もそれを見に行っていたのですが、ここで紹介するかどうか悩んでいるうちに個展が終わってしまって、ちょっと残念な思いをしていました。もう1回見に来ようと思っていたため、作品の撮影をしていなかったんです。その後、谷根千の複数のギャラリーで開催された「メタルアーツストリート」に出展していた「whale ship」を見て、やっぱり面白いなあと。そして卒展にも同じ作品が出ていて、やはり惹き付けられるものがあったので、ここで紹介しようと思いました。
下の写真がその「whale ship」です。まるでツェッペリン号(飛行船)と潜水艦を合体させた、宮崎アニメにでも登場しそうな造形です。
この作品で注目したいのは、マテリアル感の表現にあります。基本的に真鍮と鉄、ガラスしか使っていない(一部に木材も使われていますが)のにもかかわらず、なんだか金属に思えない素材感なのです。
例えば気球の部分は、まるでタンニンでなめした皮革のように見える。
クジラをつなぐロープを気球に固定するためのベルトも、やはり革のベルトのようです。
そして革同士を縫い合わせている縫合部分も、革製品そのもののように見える。
でもこれらはすべて、真鍮で作られているのです。
クジラの皮膚も、まるで生きているもののように見えます。
そしてその身体に取り付けられたメカニカルなパーツ類の芸の細かさ。
デッキ後ろから撮影すると、まるで自分がこの飛行船に乗っているかのような気分になります。
個展では他にも、ゴーグルをつけたペンギンとか、巨大なトンボとかもあったのですが、残念ながら写真がありません。撮影しておけばよかった。金属の作品だけではなく、木の枝や竹で作られたペンもありました。いろいろなことに挑戦している、技術力の高い作家さんだと感じました。
それはさておき、金属だけでここまで別のマテリアルを表現できるというのは、やはりすごいなあと思います。